打ち切られてからも作者
武富智自身の根強い活動でついに
全編書き下ろしで発売された堂々の
EVIL HEART完結巻
空手に柔道に剣道などは題材にされるけど、本作は合気道が主題。
ある理由から強くなりたい男の子が合気道に出会い、強くなりつつ大切なのは力でなく云々と成長する物語。
ベタだけどひと味違う。というのも
ある理由とは虐待であり、少年誌では見られない切実さがそこにはある。
主人公の梅に、子供に無理するな安心しろと言っておきながら、いざ子供が安心し力を抜くと今度は大人がその重圧を受けて力む、誠実な浅はかさ。
合気道の要点をおさえてるので、強くなれるけど未経験者が抱く幻想的な強さは否定している。
あくまで合気道を契機とした不断日常の意識こそが強さを保つのであって、技を憶えたところで年齢や性別などを含め万全では無いのだと。
作者の合気道愛は素晴らしく、幻想と現実の折り合いをうまくつけているが、1点気になったのは、いざ対峙した時に
「憎しみを忘れて合気道って素晴らしい」状態になるのだけど、これが少年漫画ならそれも良いけど、虐待に対し、子供なりに真剣な殺意を抱いてるのに、自分と相手以外の事を、しかも肯定的な事など思える余地など無いはずなのに。
twitterでも書いたけど「虐待」をなめてるというか認識が甘い気がする。あるいは作者が似たような経験をして救われたのかもしれない、と思える描写はあるけど、虐待の扱いに関しては甘い。最中に救われるなんて事は無い。絶対に無い。
チラ裏だけど、僕の父はアル中でDVのおまけつきだった。僕にしろ母や弟の「やめて」は、僕の年齢と肉体が抵抗できるまで決して聞かれなかった。
実際に僕は父を殺そうとして母と弟に止められたからやめて、んで自殺未遂も経験したが、落ち着いても救われないのは変わらない、人との関わりの中で楽しい,嬉しいと思う時間はあっても、いざ対峙したらそんなものはよぎる事なく全て無駄なのだ。
本作は当然ながらフィクションであり希望があって然り。実際にそれぞれの希望的な関係性は素敵だ。
個人的には鶴とのラヴコメを最後にもう1押し欲しかったけどw
そんなわけで、虐待と合気道を結びつけてしまった綺麗さには不満だけれど、それでも余り受けるとは思えない要素を情熱をもって描ききった武富智は素晴らしいと思う。
画力があるのに余り売れてないようなのでそこが勿体ない。今度はもう少し受ける要素に甘んじて描いてもいいんじゃなかろうか。
男は迫力あるし、女は萌えるし、分野を問わず力がある作家はもっと評価されてほしい。
どうでもいい事だけど、本書には
書き下ろしされましたと記載されていたけど、国語としては
書き下ろされましたと書くべきでは?
一般人の軽口なら良いけど、こうやって記録として残る出版にはもっと気をつけて欲しいと思う。
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