発行部数1000万部に届きながら何故か話題にならない川原正敏の海皇紀ですが、本誌では既に最終章と盛り上がってきて、勢いで再読したら以前より気になっていた事が更に気になってきたので記事にしたいと思います。
王海走 第2レース
以前から気になっていた事と言うのは、
単行本17巻【王海走 第2レース】におけるソル・カプラ・セイリオスの指示です。
概要(ネタバレ)
ソルは影船三番艦(バーク)に乗船し、左舷から迫ってくる船を八番艦(トップスル・スクーナー)と勘違いし上手廻し(タッキング)したのですが、実は迫ってきたのは八番艦ではなく、イバト・ルタが乗船する六番艦(バーケンチン)であり、六番艦はタッキングせずに三番艦の右舷に回り込む、という展開を見せます。
イバト・ルタはソルを挑発し無駄足を踏ませ時間を稼ぐという役割なのですが、これに対応するソルの指示が描写と矛盾し不可解なのです。
北に向かう三番艦と東に向かう六番艦
画像は前者が風上と三番艦と六番艦の位置を記した海図で、後者がその後に見られる実働の描写です。
風上は右上(北西)、三番艦が左上、六番艦が右下の船です。
両船とも少し切り上がって
左舷から風を受けて走っています。
この描写自体はなんの問題もありません。
問題なのはこの後です。
六番艦は三番艦を出来るだけ右(東)にひきつけたいので東に向かって走ります。
そして、三番艦は逆に無視して上(北)に向かうと見せて六番艦をおびき寄せいっきに近づこうとします。
そこで、三番艦は1度左を向いた後ですぐに右に向き直す指示をするのですが、
この指示が間違っているのです。
ソルは逃げる六番艦をひきつけるために「
面舵一杯(ハードスタァボード)タッキング用意」と指示します。
しかし、左舷が風上なので面舵だとタッキング出来ません。しかも、面舵だとひきつけるのではなく近づくので六番艦の思惑に乗ってしまいます。
仮に
おびきよせを省略した描写で近づく策だとしたら「タッキング用意」は不要で、
ひきつける策なら「面舵一杯(ハードスタァボード)」は間違いで「取舵一杯(ハードポート)」が正しいのです。
つまりどちらにしても矛盾してしまうソルの指示。
これは月マガ本誌で読んでた頃からずっと気になっていたのです。
僕はこの作品で帆船に興味を持ったので、知識らしい知識はありませんが、それでも面舵と取舵、上手廻しと下手廻し(タッキングとウェアリング)の違いはわかります。
本作は娯楽としての省略がある中で、娯楽作品としては充分な帆船の用語と描写があります。だからこそ、ひとつの指示が後で「おお」と思うこともありましたし、その逆として、今回の問題にもぶつかりました。
これ僕の認識が間違っているのでしょうか。
同作家の作品
修羅の門でも
描写は左回し蹴りなのに文字は右回し蹴りと掲載されていたり、そういう間違いも時にはあるとは思うですが(この間違いは本誌の後の単行本でも
文庫版でも何故か修正されていない)、左右なんて単純なのは兎も角、面舵と取舵は字面も語感も大きく異なるので、どういう勘違いなのかわからず随分と頭を悩ませました。
これ、僕が何か間違っているのでしょうか?
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