展示品
体裁はセル画展だが等身大のプロテクトギアや一部フィギュア、それからキャラ線画に英数字を書いてる
色設定用紙やカット別にセルをいれて描画とチェックしたスタッフのサインや印鑑がある
カット袋など完成品では見られない現場のモノも展示されていてニヤニヤもんだった。
プロテクトギアのメイン武器である機関銃(?)の等身大(ノンスケール?)も展示されたのだが、あれは撮影小道具だったのだろうか?
すげえ欲しかった。
人狼とは関係ない一般の子供が描いた赤ずきんちゃん絵数点も並べて展示されてたのには笑った。
また石川光久と沖浦啓之と西尾鉄也のサイン色紙が飾られていたが、西尾鉄也が描いたのは煙草をふかしてる塔部八郎という渋いセレクト。
冒頭の阿川七生が自爆する爆発前の顔アップ1カット数枚を連続して見られるように飾られてたのだがその流れ8枚全部を広角で見ると鬱々とした絵と展示会のある意味真摯な姿勢のミスマッチが妙に笑えた。
人狼関連の展示物は撮影禁止だったが、ミュージアムで平時展示されてるものは撮影可能で、ミュージアムの柱にはアニメ界の有名なスタッフ,キャストのサイン(寄せ書き)がされていたのだが、その中に川元利浩のサインを発見。
しかも描かれてるのはスパイク。
聞いたら撮影自由だってんで俺のテンションは有頂天。
他にも1917年から現代までの日本アニメ歴史一覧もあった。
トーク内容
名前を忘れてしまったのだが、おそらくミュージアムのスタッフと思われる男性が司会進行し、沖浦啓之と西尾鉄也に質問し回答と対談をかねた内容となっていた。
以下の箇条書きは要約であり一語一句が正しいわけではない。
- 両者の挨拶と軽い現状説明にて尾田鉄也「まだ言えないことばかりですがいろいろとやってます」なんの説明にもなってないw
- 司会「お客さんに聞きたいのですが専門用語ありのヘヴィな話が聞きたいですか?それとも用語とか無いナルトとかのライトな話を聞きたいですか?」と拍手で応答を求めて後者の質問で場内の笑いを誘う。拍手の結果は後者無音、西尾鉄也が1人でパチパチと叩いて「あれ?」と笑い
- 沖浦と西尾の両名「まず言っておきますがそうとう前の作品ですし色色と忘れています」
- 西尾鉄也「見たのは初号が最後だが復習をかねて予告版を見たけどなんかニヤニヤしちゃった」
作品やスタッフの経緯
- 沖浦啓之「押井守が幾つか企画を立て演出面で俺(沖浦啓之)を指名。俺は嫌だ!犬狼伝説に興味ない。藤原カムイ(さん)の絵は格好いいけど(押井節で)よくわからない作品なのでやりたくなかった。部隊の群像劇ではなく主役が明確な個人劇でヒロイン追加したらやると伝えらたら押井守が丸のみしたんで引くに引けなくなった」
このへんは特典映像とか方々で言ってるけど「嫌だ」とか「興味ない」は冗談まじりに言いつつ会場を多いに笑わせていた。また「押井さんは柔軟でこうじゃなきゃいけないとかなく変更要求や他にも常に即対応できる人」とも。
- 沖浦啓之「西尾鉄也を指名したのは、当時『忍空』で有名だったが『八犬伝』を見て気になっていた」
- 西尾鉄也「作画的には沖浦啓之を知っていたし気になっていた。噂でついに監督作品がくると聞いてあわよくば参加したいと漠然と思ってたら連絡があって『ハァ?』状態。名前は知ってたが当時は沖浦ともプロダクションIGとも接点ゼロで驚き緊張した」
- 沖浦啓之「そのせいか間違えて予定より1日早くきてたもんね」
沖浦が西尾を立てながら説明したので西尾の返答もある意味ではリップサービスもあったろうが、その興奮云々から予定よりも1日早くプロダクションIGに訪問しIGスタッフを困らせてたという話には大いに笑った。
司会もただの質問が「ここはよかった…逆にここはちゃうな~などありましたら」と砕けた口調と間合いで客席を適度にゆるませ笑わせてた。
以下「沖浦監督のこだわりの凄さ」的な回答。
- 西尾鉄也「カミですね」←語感的に客には意味がわからず客席笑い。「紙の比率(アス比)と色が気に食わず変更した」
- 沖浦啓之「紙=当時レイアウト用紙が青かった。誰が描いてもヘタに見えるし嫌で監督ならいっそ一新したかった。用紙はジブリの物を
パクリ参考にしてジブリと印刷されてるとこを消して仕上げた」
誰が描いてもヘタ、ジブリのくだりで会場爆笑。
沖浦のこだわりに加えて現在のデジタルよりもアナログで苦労した点は…。
- 西尾鉄也「監督が絵の具選びから始めた」
- 沖浦啓之「アニメで使われる色は100から200色。そこから作品のために作る新色(中間色)がある。『太陽』というメーカから利用するが当時職人が目分量で調整していた。色のくすみを防ぐためにカットに使える絵の具ロットを定められていた」
- 沖浦啓之「絵の動きにあわせて1つの絵に対して部品ごとに複数のセルと塗り(重ね)が必要で最大で5枚まで。くすみと動きの調整、例えばプロテクトギアの赤い目がずれて大変だった」
- 撮影の段階でセルに傷やほこりがつくのでほぼ1発撮りで演出的にしくじったら描きなおしのカットもあった
- 西尾鉄也「年寄りが最近の若いもんが的な話になってしまうが、デジタルで塗りやレイアウトなどの後処理が楽になったぶん最初の作業段階で雑な(若い)人が増えた」
- 沖浦啓之「撮影スタジオ(コスモス)とプロダクションIGが遠かったので制作の物理的な手間もあった」
- 沖浦啓之「デジタルは夢の箱だと思ってたが実際はとんでもなく面倒で(手で)書いたほうが早いので結局旧来の方法も多かった」
- 沖浦啓之「当時平行してBLOOD THE LAST VAMPIREもやってた。デジタル機材的には整ってたのでそっちはデジタルメインになってる」
この絵の具職人は下町の狭いとこで爺さん1人と補佐の数人でやってたらしく、絵の具探しでそこを見た時には驚いたとも。
また沖浦啓之が「劇場版と言えば井上俊之。スケジュールと質の両立が素晴らしく逆に彼がいない現場はどうまわってるのか気になる」と絶賛してたのに対して西尾鉄也は「素晴らしいスタッフな反面、自分の仕事が減っていくので負けてられず複雑」と立場の違いによる意見もあった。
ディズニーではキャラごとに作画監督が割り当てられてた時期があり、人狼は最終的にはそれに近い形に落ち着いたらしい。
西尾鉄也がひたすら「監督がねちっこく圭を修正してた」とやたら「ねちっこく」を強調してたのが笑えた。
作業的な最終カットは雨宮圭が自宅で寝返りをうつ場面だったが、沖浦の作業があがってチェックのために西尾鉄也に届いたが、あがった絵を見ないでマルをつけた、と笑いながら話していた。
沖浦啓之は他にも背景の小倉宏昌をあげて、最近の妙に緻密なものに比べて、レイアウトしっかり塗りはざっくりと要所をおさえた腕を評価してた。
以上がだいたい40分くらいの内容。はしょってる部分もあるがこんな感じ。
ここから数人の客からのQ&Aにうつった。
質問は時間の問題もあり5人で、その都度挙手に対して選ばれた。
と言っても挙手自体が10人にも満たない感じだったが。
質問は以下。
客席からのQ&A
- スタッフと折り合いがつかず大変だったこと
- 当時,また現在での作品(人狼)の満足度
- 作画から初の監督にあたって経験なかった音響や音楽での苦労など
- 人狼を作った当時に何を考えていたか
- 人狼公開の翌年に同時多発テロがあり場合によっては公開が難しく、またテーマもテロなど社会情勢を含むが未来に起こりえる社会問題をどう予想し作品に反映させてるのか
- 作画的にしてやったりと思ったとこ
1人目の質問者は白を基調とした和服を着た若い女性で沖浦から「何故に着物?」と逆に質問されてた。返答は「趣味で///」だった。
髪どめをつけつつも波がかっておろしただけの髪型で、なかなかに奇麗な娘だったのでミュージアムのむかいが神社だったので頼んで撮らせてもらえばよかったとちょっと後悔w
3人目の質問は関係者席の記者からだったが、他の4人に比べると口調も論旨も明快でまた沖浦の履歴も踏まえた質問で流石はプロだなと感心した。
以下がそれぞれの返答。
1)
- 制作担当の堀川憲司がスケジュールグラフ(締め切り)と(沖浦)監督の品質要求でもめて「できねえもんはできねえんだよ」と言ってた。ちなみに発言の再現は西尾鉄也がやっておもしろおかしく見せていた
- 沖浦啓之「堀川憲司の言い分もわかるが自分たちもスタジオの踊り場でかわるがわる寝ながらギリギリの仕事をしてた」
- 最初のラッシュが半年後にあがって確認作業で酷い質に愕然としてやりなおしが多くスケジュールがきつくなった、と両名
- 仕事上でもめても勿論その後に険悪になるとかはない
2)
- 沖浦啓之「どんな作品でも完成後にああすればよかったというのはある。しかし監督という立場からだと作画監督などそれぞれの担当の個性も反映され愛情と手間をかけて仕上げてくれた作品なので不満などなく満足している」
- 沖浦啓之「作品完成後に見直すことはない。特に落ち込んでるときには見られないw」と冗談まじりに
- 西尾鉄也「管理する役職に対して、原画担当の時には作品を見て『俺のパートが1番イケてんじゃん』とか思ってたw」
- 両名とも末端と管理の立場の違いで作品への姿勢が違うと
- 西尾鉄也「ジブリのスタッフ(安藤)と話して、当時はVHSだった千と千尋を彼はデッキにテープ途中までさしこむが結局抜いてやめてしまう、と聞いてやっぱ同じだなと面白かった」
- 沖浦啓之「それは赤いからじゃなくて?」
ここで恐らく今回1番の客席爆笑。
「今の無しでw」とフォローもしていた。
そこですかさず司会の人が「TV放映でも赤かったので大丈夫ですよ」と更に笑いを誘発。
3)
- 沖浦啓之「人狼の時には何も考えずはじめて音響監督などから助言をもらってこなしてた」
- 沖浦啓之「当時リュックベッソンが好きで日本でもハリウッドでもない感じの音楽エリックセラな感じを求めてたら溝口肇を進められデモを聞いたら良かったので採用」
- 沖浦啓之「声優はオーディションで選択。人狼の雰囲気から(アニメ系で)うまい人だとあわないと思いマイナーな人を選んだ(マイナーなんて言っちゃあれだ、フォローして会場笑い)」
- 沖浦啓之「監督作品は人狼とももの手紙しかないのでTV作品を幾つもさばいてるかたがどうやってるのか知りたいし、経験的な面でもそこは突っ込まれたくない」最後のは冗談まじりに
音楽は溝口肇だが溝口肇と菅野よう子が夫婦だった頃の作品なんだようなあ…。
夫婦と言えば残念ながら武藤寿美のなれそめについての質問も言及も無かった。
そこだけが今回唯一の不満だw
4)
- 沖浦啓之「16歳からアニメ業界に入り特殊な青春を迎え世間からする職業、社会的立場、壁を感じてた。社会への嫌悪と安らぎという点は伏と同じかも」
- 沖浦啓之「当時アニメ作成はアナログからデジタルという時代変化があり、隆盛と衰退を迎える特機隊と同じか」
- 西尾鉄也「え?俺ぜんぜんそんなこと考えてなかった!」
質問者は10代後半くらいの女の子。
質問自体が漠然として両名とも苦笑してた。
自身の経験を真面目に話しつつも人狼と結びつけてるのは本人も強引だと承知してるので苦笑しながら話してた。
そこへ西尾鉄也のフォローボケいいコンビだった。
5)
- 沖浦啓之「それは西尾くんのほうで」と仰々しい質問にあっけにとられ冗談で切り返す
- 沖浦啓之「押井(守)さんなら何か考えがあったかも知れないが、自分は半分絵描きみたいなもので作品を一生懸命作るけど思想的なことは個人的には無い。申し訳ない」と苦笑しながら
あっさりめだった返答に対する司会のフォローが素晴らしかった。
- 現在テロなどの問題で公開が難しいと言われるが人狼が日本よりも海外で受けてるのは欧米にとってテロは身近な日常的な問題であり911で日本が騒ぐ前から世界では常にそういう問題が起こっていたので題材は特別ではない
口調は勿論ゲストや客席に気をつかった感じで上記はあくまで要約だが、この司会は何者か知らないが気遣いと知性と軽口を孕んだ素晴らしい司会だった。
施設職員なのかアニメ業界の人なのか俺にはわからなかった。
最初に名乗ってたけどメモし忘れたし…w
また質問者はスカイクロラのTシャツを着たある意味で彼らを神格化したヲタだったようだが、西尾鉄也の返答は痛快だった。
- 西尾鉄也「そもそも日本がドイツに占領されたというIF作品で、それはそうすればドイツの銃器や兵器を好きなだけ描けるから。つまり押井さんの趣味丸出しのファンタジー」
趣味まるだし云々でうんうんとうなずいてた客もいて笑った。
人狼かスカイクロラか忘れたけど特典映像で押井守が作業現場の中でモデルガンを持ち出して「こういう仕事するやつはこういうの好きじゃないと駄目」と嬉しそうにモデルガンを持ちながら話してたの思い出した。
色色とごちゃごちゃとうるさい作風だがつまりはただのヲタだしな押井守も。
スカイクロラのオーディオコメンタリで理屈好きの押井守に対して西尾鉄也がざっくり話してたのを思い出した。
6)
- 沖浦啓之「夢の場面、吹雪や狼の描写」
- 西尾鉄也「マズルフラッシュ!」(即答)
- 西尾鉄也「銃に関する知識がなく人狼で初めて勉強したが、薬莢のとびかたや硝煙など素人の自分が頑張って描いたものがマニアにも受け入れられて嬉しかった」
- 沖浦啓之「俺は(銃の構造やうんちく)最後までちんぷんかんぷんだった」と笑いながら
- 沖浦啓之「(押井守の趣味的に)銃器の設定が作品が終わるまでにあがるのかと心配だった」
- 西尾鉄也「実在の銃ばかりなのでモデルガンを参考にすれば充分だったので途中から設定は無視した」
- 西尾鉄也「螺旋状に回転してる銃弾の衣類を巻き込んで体へ食い込む感じは完成品を見ると気づかない(見えない)がちゃんと描いてる」
- 沖浦啓之「模擬戦のペイント銃だけはアニメオリジナル」
Q&Aは以上。
最後に
- 沖浦啓之「11年前の作品にも関わらず今回のイベントは募集開始から3分で終わったと聞いて今でもこうして評価されて嬉しい」
- 沖浦啓之「スポンサーには10年後も見られる作品を作る、と言ったがそれが実現した」
- 沖浦啓之「意外と女性客が多くて驚いた」
- 西尾鉄也「迷彩服のいかにもばかりが来るかと思った」軽口
- 西尾鉄也「新作ももの手紙は人狼とは路線が違うので『あの人狼の沖浦が』宣伝で大丈夫なのか?」
- 沖浦啓之「ももの手紙は小学生から楽しめるような作品。人狼のような作品好きにはあわないかもしれないが、来るなとは言えない」
- 西尾鉄也「人狼ファンから『おれの沖浦さんが!』とか言われないか心配」
- 沖浦啓之「ひよってる!とか言われるかもしれない先にあやまっとく」
と最後は軽く新作の宣伝もしつつ2人の冗談が鋭く飛び交うものだった。
自虐的な言葉1つ1つに客も笑ってたし、今回のイベントは結局キャンセル待ち15人がこぼれたわけだが、別フロアにてイベントを液晶TVからカメラで生公開しており、会場の扉が開いたら外にある別フロアからも拍手が聞こえてニヤリとした。
セル画展は入場無料でトークイベントの観覧も無料かつ席にこぼれた人へのディスプレイによる公開など、2人の出演料ぐらいはあるだろうにどうやってもとをとったかわからないがとても善意にあふれたイベントで素晴らしかった。
抽選を期待して駄目もとで行ったが大いに笑い当事者の話が聞けて現物が見られて満足。
銃器や押井守のくどい感じに興味ないとか別のことやりたいとか路線が明確で、押井守のくどさをうまく緩和し活かしつつ社会,集団,個人,男女と普遍的な要素をおさえて素晴らしい作品に仕上がった名作。
体裁はデジタル主流の現代に対してのセルアニメだから、というイベントだったが、恋愛と社会思想とアクションと何か…という一般的な、普遍的な作品として、更に評価されてもいいなあ…と思った信者乙。
そして沖浦は…またアニメを作った。