題名と表紙に惹かれて購入したが当たりだった。
題名の通り、
古道具中野商店で働く(バイト)
ヒトミの一人称で描かれる短編小説。
ヒトミ(わたし)と、同じくバイトの
タケオ、
古道具中野商店の店主
中野さん、中野さんの姉
マサヨの4人と、
古道具中野商店へ訪れる客の物語。
というと幻想的(ロマンティック)で聞こえは良いが、店は使い古した
古道具を扱うのであって、文化的価値がとか言われる
骨董ではない。客との劇的な出会いや別れもない。
居るのは仕事が楽しかったり辛かったり、人を好きだったり嫌いだったりする平々凡々な人人。
扱われるのはあくまで人が使って不要になった
古道具。
以下がそれら(目次)。
- 角形2号
- 文鎮
- バス
- ペーパーナイフ
- 大きい犬
- セルロイド
- ミシン
- ワンピース
- 丼
- 林檎
- ジン
- パンチングボール
ああ、なんて色も味もない目録。けれど、なぜか読んで良かった、と思えてしまう。
目次にそれぞれ主題となる
古道具が記されているのに、そんないう程には扱われない。たしかに触ったな、弄ったな、見たな、聞いたな、と思うけれど、その程度。
古道具中野商店としての古道具蘊蓄もなく、ただ淡々と商売と色恋と、よくわからない関係が描かれる。
客とのやりとり、思い出の品、どうでもいい品。
中野さんの女ったらし、マサヨのダラダラと真面目な恋、そして、
ヒトミと
タケオの関係。
色色あるのに、どれもが平凡。淡白なのに、刺戟される。
綺麗でも素敵でもない、曖昧な思いと、はっきりした関係。
以下の引用が本作をすべて物語っている気がする。
「文鎮なんだって」わたしはタケオの小指から手を離しながら、言った。
「ぶんちん」
中野さんのお店にありますね、文鎮。そうよ、文鎮って便利なのよ。あたしは領収書の紙おさえに使ってるわよ。たまってくると、領収書って、箱からぶわっと飛びだしちゃうでしょ。それをね、こう、文鎮で押さえとくの。マサヨさんにそう言われて、かつては自分もぺらぺらとした紙で、ずっしりとした文鎮に押さえつけられたことがあったような気分になってきた。
「タケオって、重いかな」だんだんと酔ってきたらしい。そんなことをわたしは聞いていた。
「試してみますか」
「いい、今はいい」
「いつでも試していいすよ」
この後、予想するとがっかりし、読み進めてくと笑ってしまう、そんな関係、物語が全12編。
こういう、なんでもない、落ちも結論もない曖昧さこそ、文学に許される魅力なのだよな、と何でもないことを何となく思った。
感動しないし、劇的なことは何も無い。けれど、すすっと読んじゃう。そして、何か思っちゃう。
楽しいとか面白いとか言えないけれど、読めて良かった。そんな小説。