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【喜嶋先生の静かな世界】幸福の獲得は願望の損失 このエントリーをはてなブックマークに追加

喜嶋先生の静かな世界を読んだ。
これ森博嗣の最高傑作じゃなかろうか。
これは今後、1,2年に1回は読みかえすと思う。素晴らしい。
恋愛から主人公の橋場の心境が変化する、というのが大事とはいえヒロイン(スピカ)との恋愛発展は強引な感じがした。
しかし、互いに言いたいことだけ言うすれ違いとか、この距離のとりかた、描写が装飾の少ない小説なのでよく映える。本筋に影響がない細かいやりとりで笑ってしまったし、そして、人間関係の別離が実に淡々とあっけなく描かれる。しかし、ある程度の歳をとってから読むとそれが経験としてありすぎていたたまれない。

すベてがFになるから続く主張めいたことも健在。専門の話に多くの人が無関心であることへの評価。娯楽作品としての鋭さがなくなり実にやわらかくなった感じ。
それにしても、どうしてみんな引いてしまうのだろう。きっと、自分の実生活にも。想定される未来にも関係が見出せない、だから関心を持っても時間の無駄だ、といった理由だと思う。でも、たとえば、髪の毛の色とか、服の形や模様なんて、実生活にどれほど影響するものだろうか。それで未来がどう変わるだろう?
これは対象を限らない情熱、という点でいつも思ってた。専門家や、某かの対象の善し悪しを語れる人の話は面白い。それがたとえ自分の知らない分野や対象であっても、苦労した点、結果の善し悪し、過去との比較、今後の展望…、抽象すればおおよそ人の全てがそこにはあるし、未知を既知にする契機にもなる。だが、たとえば今時カメラなんて携帯電話のも含めて誰でも持ってるのに、レンズの仕様による利鈍と効果の差異、なんてのを酒を飲みながら話しても誰も聞いていない、という(その人はカメラマンだった)。これは対象が髪の毛の色や服の柄でも良いのだ。肝心なのは、興味の対象が1つあるなら、その取り組みは応用できる、しないことこそが問題なのだ。

この作品は、主人公である橋場の結婚式に恩師である喜嶋がスピーチをして客席を白けさせる場面、ここが全てじゃなかろうか。もちろんそれまでの描写、蓄積があればこその場面、つまり名場面。
ええ、ただ今、ご紹介にあずかりました、喜嶋であります。ええ、橋場君とは、もう五年以上のつき合いでありまして、それも、普通の関係ではありません。研究を通して、常に議論し、お互いを理解し、叱咤、激励し合い、これまでともに歩んでまいりました。ええ、橋場君の研究というのは、不均質な材料、つまり、構造も性状も異なる複数の物体が混ざり合ったハイブリッドな人工材料の構成則、さらには破壊性状の予測手法に関するものでありまして、その中でも、特に弾塑性のみならず、異方性が顕著となる破壊領域にまで及ぶ一般構成方程式の解明という、これには世界的に見ても潮流といいますか、最も注目されているところでありますが、この難問に踏み込んでいくフロンティア的、革新的研究であると評価を受けているところであります。ええ、橋場君があれを思いついたのは、えっと、三年まえのことだったでしょうか。そもそも、非連続体の挙動を、数値シミュレーション以外で取り扱うこと自体が既に冒険だったのですが、ここにまさに、非連続を包含するといいますか、まあ、専門外の方には、フーリエ変換を思い浮かべてもらえば多少はイメージできると思われますが、セオレティカルでありながら、ニューメリカルな、ようするに、手法自体がハイブリッドであるという、実に斬新な発想から生まれた手法でありまして、これには、おそらく世界中の破壊力学関係の研究者が、おっと声を上げて驚いたはずであります。僕もそのときには、いや、いくらなんでも、これはないだろう、と一瞬思ったわけでして……
この話は作中で更に続く。これを読んだときには腹をかかえて笑った。言ってることはわからないが言いたいことはわかる。そして、この内容は作中、結婚式場にいる人の中で主人公の橋場にだけ、橋場にしかわからない話なのだ。なんてロマンチックなw
話のまとめかたが学問、研究、ある対象に向けてだけ生きる純粋さ、という点なので作品の命題が限られてるような印象を受けるが、実際には本筋に無関係なやりとりこそが作品の雰囲気を構築し、自分が気にかける人の恋愛話に嬉しくて大興奮とか(喜嶋と沢村はカプ厨としてもう最高だった…たとえ結果があれでも)、環境による自殺のうんぬんとか、説明そのものが抽象的なので込み入った感じはないが、とにかく集合した結果、人生を描いてる素晴らしい純文学。
現在の幸せは、過去の何かを失ってこそなりたつもの。
幸福の獲得は願望の損失。
両方を抱いて生きていけない…人生だね。

感想(考察) [ 2012/05/31 06:23 ]