彼はヒーローじゃない
沈黙の守護者 我々を見守る監視者
THE DARK KNIGHT
| 凄い。月並みだけど、これしか言えない。凄い。先日は勢い一発で観に行ったら売り切れ満席で観られなかったなんて落ちで枕を濡らしたが、昨日の金曜日は仕事を早退したら無事に観られたw 本筋に関しては様々なところで語られているから、先ずはそれ以外について語りたいと思う。 |
◆
効果音が凄い。
これは
映画館で観て正解だと思った。
バットマンの動き、はためくマント、格闘の打撃音、走る足音、車や飛行機,マシンの機会音、吸着や飛び交うバットマンの武器、銃声。
これは
演出(編集)の妙でもあるのだが、
バットマンという
偶像を描いた作品ゆえに、その偶像に対する人間は軽く弱くなる、というのがこの手の(偶像)ヒーロー作品なのだが、そのヒーローに対する人間、犯罪者の行動が恐ろしい。映画という娯楽では形骸化した
銃を撃つ、それだけの行為が
静と動を巧みに合致させた
演出(編集)により、1発の銃声が響くだけで
ビクッとしてしまう。僕と同じところで、他の客も
ビクッとしてた。
軽妙と重厚、矛盾しているけれど、作品の主題でもある
矛盾がよくあらわれていたと思う。こういう映画を観ると
ブルーレイが欲しくなるのも解る。
◆
音楽が凄い。
音楽は、その筋で有名な
ハンス・ジマー(Hans Zimmer)と
ジェームズ・ニュートン・ハワード(James Newton Howard)の共作。
152分(2時間32分)というヒーローモノとは思えない長編映画だが、
音楽は絶え間なく流れているような感覚。
けれど実際には2時間以上をも流れているわけではないし、音楽が前面に出ると諄い印象を受ける筈なのに、まったく自然。
それは、上記の
効果音との
聯繋と、
主旋律(メロディ)を押し出さない曲の構成がなしえた、のだと思う。
僕個人は
ダニー・エルフマン(Danny Elfman)のファンでもあるので、
ダニー・エルフマン(Danny Elfman)のバットマン(BATMAN)も大変に素晴らしいと思うし、あのテーマを聞くだけでテンションがあがるw
しかし、今作の
ダークナイト(THE DARK KNIGHT)は
1つの強い主張というより、
混在や矛盾という
輻輳した要素の表現、主題だと思う。そして、音楽や効果音などの裏方としての要素も見事にその
指向(思想)を反映されていたと思う。
観覧後
サントラを買ってしまった。
美術や衣装だなんだは観れば凄いの解るから省略w
そして、本筋。前作
バットマン ビギンズ(BATMAN BEGINS)で見事に
硬質で厳格な
ダークヒーロー像を確立した
クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)。
正直なところ
前作で描くべきことは描かれていて、もう表現する主題は無いんじゃない?
と思っていたのですが、済みません、僕が間違っていました。
今回、描かれるのは
理想と現実をすり寄せる
偶像(バットマン)が孕む矛盾。
犯罪に対抗するための存在、
バットマン。しかし、
バットマンが居るがゆえに抵抗し増長する犯罪者。
そして、犯罪に抗うために、自ら法から外れる
バットマン。
人として抱える葛藤と、そしてヒーロー(偶像)として矛盾する
バットマン。
これは
大衆娯楽(エンターテインメント)なのか?
いや、充分に
大衆娯楽(エンターテインメント)だとは思う。ヒーローとしての
バットマンの活躍。疾駆するバットモービル、犯罪者を倒し歩むバットマンの格闘、爆発する建築物。いかにもハリウッド映画だ。
しかし、そういった娯楽的要素の中に、犬と格闘して苦戦するバットマン、超然的なヒーロー像はあっさり捨てられ人としての情けなさが描かれる。そして、格闘中に敵の武器(銃)を奪い倒すバットマン、だが打撃により倒した後、奪った銃の弾(弾倉)を抜いて銃を捨てながら次の敵に向かい歩む、という娯楽的アクションシーンの中に、理想に向かうバットマンとしての指向がさり気なく織り込まれています。
また、ヒロインのレイチェルとの恋愛(ロマンス)も、ただ綺麗な相思相愛ではなく、『相手を想う』という指向が必ずしも相手にとって良いとは限らない、大切にするがゆえに破綻する、退っ引きならない
恋愛が展開していきます(この恋愛も最終的な展開に退く客も居るのでは?)。
以前の映画バットマンと異なる象徴的なのは、
今までのバットマンは向かってくる。つまり、遠くから近くへ、小さくから大きく、迫りくる飛んでくるシーンが多いのです。作品によっては、本筋が終わって後、逆光を背にしてこちら(観客)側へ走っているシーンで終わります。
しかし、
今作のバットマンは去っていく。近くから遠くへ、こちらからあちらへ、走り去って行く、飛び去って行く。そういう場面(シーン)が実に多いのです。
これは、映画という視覚的娯楽ゆえの演出と同時に、平和や日常から乖離しているバットマンとしての指向、犯罪を対するがゆえに犯罪と同時に存在するバットマンとしての現実(舞台であるゴッサムシティの住民と映画の観客)との距離だと思います。そう、本編の演出で、ずっと
バットマンとの距離を感じされる。
観客と同じ人として葛藤や逡巡を抱えながら、同意出来ない、共感できない立場であるバットマン。
むしろ、敵役の
ジョーカーや
トゥーフェイスへの共感や同情のほうが多いのではなかろうか。
つまり、これらは表現としての悪と、決して善だけではありえない人の矛盾、それを
大衆娯楽(エンターテインメント)として象徴的に描き、しかし、その象徴(意味)がひっくりかえる。
バットマンって、言っちゃえば
コスプレして正義のために張り切っちゃう兄ちゃんという作品です。
それなのに、それがこれだけの
社会(世界)を構築し
倫理、狂気、善悪、理想、現実を描いた映画作品になる。
激しい場面変化、並行する物語、切実な対話。
脚本、演出、編集、衣装、美術、音楽、効果音、ありとあらゆる1流が輻輳した1分の隙もない作品。
凄い。月並みだけど、これしか言えない。凄い。
今回、何故作品の題名(タイトル)に
バットマン(BATMAN)の名が無いのか、観れば納得がいきます。
偶像、象徴、ヒーローである
バットマン(BATMAN)でありながら、そこには
社会と個人、
倫理と狂気、
理想と現実、
逡巡と葛藤が、どこにでも、誰もが抱く問題がある、描かれる。
彼はヒーローじゃない
沈黙の守護者 我々を見守る監視者
THE DARK KNIGHT
1,800円なんて易いもの。152分(2時間32分)なんてあっという間です。
この夏、この作品を観られて本当に良かった。
凄い。月並みだけど、これしか言えない。凄い。
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映画「ダークナイト」オフィシャルサイト◆
Wikipedia ダークナイト(The Dark Knight)◆
Wikipedia バットマン ビギンズ(Batman Begins)◆
ダークナイト(The Dark Knight) 公式サイト◆
ダークナイト(2008) - みんなのシネマレビュー◆
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