■見習いは愛らしい?憎らしい?新入生
表紙を飾るのは今作のヒロイン(?)
日坂菜乃。
琴吹ななせすら1度も表紙を飾ったことがないのにこの新参者の小娘がこんなに堂々と愛らしいなんて…。
僕は好感を持ちましたが、日坂菜乃は読者的にどうなんでしょう。
読者は既に、井上心葉の経験を知り、そして結果も知ってます。
そこに突然、日坂菜乃が飛び込んできた。
経験があるからこその井上心葉に未経験の日坂菜乃が惹かれるのはよくわかる。井上心葉だって
年上のあの人に惹かれたのだから。
けど、彼女の幼さは果たして魅力なのだろうか。
健気と言えばたしかに、僕は好感を持ったけど、そっと零してしまった井上心葉に対して
あの人を想像し重ねて見えるように振る舞い彼に好かれようとする日坂菜乃は、あまりに浅く幼く鈍感で健気。
なるほど慥かにこのシリーズにふさわしいヒロインでしょうが、結構敵を作りそうな娘じゃないでしょうかA^^;
琴吹ななせはやりすぎだと思いますが、気持ちょっとわかります。
■男前だよ井上心葉
既に
あの人がいない場所に独りでいる井上心葉。
既に終えた喜びとこれから迎えるであろう苦しみと、我々読者はその断片を示され知っていますがはっきりわかってたわけじゃありません。だからこそ今回の井上心葉を知ることで、なんていうかたまらない。
今回は、先を思わせる話なのに今迄を踏襲し重ねて見えることだらけ。
日坂菜乃が手帳を開くのに風に飛ばされそうな
メモの紙を口にくわえて、そしてそれを見て止まる井上心葉。
もうね、これだけで泣きそうでしたよ。
そして知ってる読者と知らない日坂菜乃が見せられる井上心葉。
以下26頁より引用
井上先輩が、どんどん難しい顔になる。
「全然ダメですか」
「全然ってわけじゃないけど……うーん」
また眉根を寄せたあと、ふいに、やわらかな顔になった。
「この話を食べたら、真っ赤なチリソースであえた素麺にクランベリージャムと生クリームをトッピングして、その上からマスタードと唐辛子をふりかけたような味がするんじゃないかな」
そうつぶやいて、小さく――笑った。
(中略)
うわぁー。うわぁ! なに、この笑顔っ!
世代をまたいだ旧世代ってどうしてこんなに格好いいんだろう(互いにまだ高校生だけど)。心葉おまえ男前過ぎやしないか。
そして、
あの人のように想像して話す井上心葉がもう…。
そりゃこんなの見せられたら日坂菜乃も惚れるわ。
もうひとつ、今迄とここからを合わせた時間を感じて良かった場面。
以下64頁より引用
三週目に突入したある日、心葉先輩がぼそっと尋ねた。
「きみ、まだ部活やめないの?」
「ええ、こんなに毎日冷たくされても通い続けるなんて、わたしもマゾだと思います。でもだんだん慣れてきて、先輩の嫌そうな顔を拝見するのも快感になってきたので、明日も明後日もお世話になります」
「それ、マゾじゃない! サドだ! ぼくが、きみにいたぶられてるんだ!」
「そうかもしれません。井上先輩もちゃんと部活に来てくださいね。もういきなりキスしたりしませんから。井上先輩からしてくれるまで、我慢します」
「一生しないからっ、絶対ありえないからっ」
そんな会話を続けるうちに、心葉先輩もようやく折れて、
「きみのこと、ぼくに課せられた試練だと思うことにするよ、きみといると、仏陀やガンジー並みに忍耐力がつきそうだ」
と、溜息と嫌味をたっぷり練り込んで言ったのだった。わたしは思わず涙ぐんでしまい、
「心葉先輩が、わたしのこと受け入れてくださって、嬉しいです」
と伝えたら、
「受け入れてないからっ。それに、ちゃっかり名前で呼ぶな」
と怒られた。
井上心葉が今らしく、それでいて
彼女の影をどこかで見ていて、それとは別に逞しく愛らしく図々しい日坂菜乃。ほんと愛らしいんだか憎らしいんだか。
2人のこういうやりとりを見てると、ますます
ななせが不憫で不憫で泣けてくる。
■文学少女の浮き彫り
今回の話で、実は見落としがちな歪さが明らかになりました。
それは、つまり天野遠子と井上心葉。
天野遠子の
体質は最初に見せられるために、彼女の振る舞いは心葉(読者)にとって実に魅力的です。今回心葉が真似てみせた
物語を味に例えるのも、2人を知るものにとってはニンマリしてしまいます。
しかし、そもそも天野遠子がそうしたのは、彼女には味がわからず、自分と世界、心葉に対して示すための想像であり比喩なのです。
そして、井上心葉は彼女と違い物語を
味わえないながら彼女らしさを求め、日坂菜乃に
言ってみせます。
今迄、物語の中心で2人に思い入れたからこそ見失っていたことが、今回、2人を知らないまっさらな日坂菜乃が居ることで、本来
おかしいことがおかしいままに示されるのです。
軽口ながら
妖怪と言われるのを拒んだ彼女、今迄魅力的だった筈の言動が、ここにきて一気に歪だと思い知らされる。
何も知らない日坂菜乃が居ることで今迄を知らないままに否定し、そして今迄を見ている読者は天野遠子の見えない側面を
想像させられる。
本編で語られたのはあくまで天野遠子の問題で、望み望まれていた役割、文学少女の歪さ。
今回、事件うんぬんよりも何よりも
文学少女の抱く、抱かれる幻想の浮き彫りが1番きつかった。
■ご覧の通りの"文学少女"よ
そして、それでも目指す心葉は、知らない日坂菜乃と知ってる読者に対して示す。こう言ってのける。
「あなたは……誰なの?」
「ご覧のとおり、ただの高校生です」■総評
正直、次巻に続く程の話だとは思っていませんでしたが、脇役もひと通り登場して、新旧をまたいだ時間と関係をしっかりと感じさせる新刊で、
あの人がいないままに本編と言えるくらいの内容でした。
登場人物と未登場人物の両方をシリーズとしての幅と魅力をより一層広げて深めたんじゃないかと思います。
それにしても、
ななせおまえは本当に泣かせるぜ。
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