アメコミに関する記事を書いて、自分は幾つかの作品を好きなだけでアメコミ自体に通じていないと自覚しつつ興味があったので
アメリカン・コミックス大全という本を見つけたので読んだ。
大変面白い内容ではあったが、著者が言う通り大全ではなかった。
個人的には本の題名から時代と作品の羅列、それに対する解説、というものを想像していたがあくまで著者独自の人脈によりなしえた箇所箇所に関する内容であった。
それにしても僕の知らない作品や作者が山ほどあったけど。
僕がアメコミで知りたい点は以下。
- アメコミはフルカラーが前提だが白黒の事情は
- 有名な作品は映画化されるスーパーヒーローばかりだがラヴコメなどジャンルはどの程度あるのか
- アメコミの歴史そのもの
さて本書と僕個人の興味が合致した点を書く。
まずフルカラー
1895年に日曜新聞カラー印刷で掲載された
イエローキッドがアメコミの起源である(最初は1コマで後年数コマ作品になったから起源とする年号はまた違うらしいが)。
まず日曜のカラー版、その後に平日白黒版に掲載されるようになった。
つまりカラーが先で白黒が後。
アメコミはフルカラーが前提という認識も、遡ってみてもあながち間違ってはいなかったようだ。
スーパーヒーロー以外のジャンル
本書は大全というには情報が少ないが、その代わりに著者によるアメコミ権威者インタビュウがある。
Stan Leeインタビュウにこうあった。
Stan Lee「実は私は、ソープオペラのマンガも好きでね、1950年代にも新聞連載のメロドラマのコミックスの原作を書いていて、いまに始まったことじゃないんだ。ミリー・ザ・モデルも私は好きで、私はメロドラマを楽しんで書くんだよ。もっとこの種のコミックスを描きたい気持はあるんだが、人気がいまひとつでね」(中略) 彼が女性向きのロマンス・コミックスのスト-リーを書くのが好きだ、というのもおもしろい。マーヴル・コミックス(タイムリー社時代も含む)もDCコミックスも、50年代から70年代の前半までは、スーパーヒーローものとは別に、女性向けのロマンスもののコミックブックを何種類も刊行していて、ひとつの人気ジャンルとなっていた。(中略) 残念ながらこの分野は、1970年代で終わってしまったようだ。
僕自身、アメコミ=スーパーヒーロー認識だったのだけど、
アメコミの背景は日本の漫画より凄いのか?と言う記事を書いたときに日本の恋愛漫画とスーパーヒーローのアメコミを比較してからアメコミのジャンルに興味を持って気になっていた。
アメコミの歴史
本書は時系列ではなく、アメコミ2大媒体スーパーヒーロー単行本と新聞連載日常系にわけて説明、あるいは有名作家のインタビュウを掲載している。
日本漫画との比較
アメリカ新聞連載で2000紙を超えた作品は5作品ある。ピーナッツ(スヌーピー)もその1つだが、つまりスヌーピーと並ぶ作品で『善かれ悪しかれ(
For Better or For Worse)』がある。
僕は本書を読むまで全く知らない作品だったが、その作者Lynn Johnstonのインタビュウが興味深い。
日本のマンガは面白いわね。人物はとてもマンガ風にデフォルメしてある場合でも、背景に飛んでる飛行機なんかは実に細かいところまで描き込んであるのね。あれには感心するわ。
僕も
アメコミの背景は日本の漫画より凄いのか?で書いた、日本の漫画も決して線が少ないのではなく、誇張と省略する人物絵と、写実的に描く背景の2つが混在してるが印刷が白黒だから印象が薄いだけなのだと。
また先述したアメコミのジャンルとも被るが、
バットマン イヤーワン(
BATMAN:YEAR ONE)を作画したDavid Mazzucchelliはこう言っている。
2つあります。1つはマンガで扱う内容がとても多様で、マンガを読む人口が多いこと。アメリカ人はあまりマンガを読みません。女性マンガ家が多いのと、少女マンガの人気の高さも日本独特です。もう1つは表現の独自性。欧米の物語マンガでは、1つの作品のなかでキャラクターの描写は、始めから終わりまで感情的に一定している。つまり、登場人物を外から見ている客観描写です。(中略) それが、日本のマンガでは、1つの作品のなかでも、その人物の感情によって、人物を描くスタイルが急にそこだけ変わる。感情が爆発すると、突然マンガ調の顔が劇画的になったりする。そうすることで、読者を作品の内部、主人公の気持のなかに惹きこんでしまう。いわば主観的な描き方ですが、これは欧米のマンガにはない手法で、とてもおもしろい。
これも背景と同じく、白黒故にできた表現だろうか。色を変えられないなら形(絵柄)を変える。
この感情と絵柄の変化はもうちょっとつめてまた記事にできそう。
既にあるのかもしれないが。
そんなわけで、大全とは言えない限られた作品と作者を扱っているけど、僕自身の興味がある点とは結構一致していて実に楽しめたし示唆をうけた。
著者は
あとがきで以下のように書いているし、手塚治虫と一緒にアメコミスタジオを訪問したり、専門家と言うよりアメコミ馬鹿がふさわしいのかもしれないw
「アメリカン・コミックス大全」というタイトルは編集者がつけたもので、それならもっといろいろとりあげなくてはと、あせってあれこれ書き加えたというのが実情です。ですから当然、「アストロシティ」のことが出てないじゃないか、「ウォッチメン」「復讐のV」はどうしたなど、自分のお気にいりのマンガのことが書いていないというお叱りを受けてもしかたありません。自分でもとても不満です。「大全」からははるかに遠く、しかし「大全」を夢見る気持は、どうか察してください。私よりもアメリカン・コミックスに詳しい人たちも出てきており、嬉しいことですが、そうした人たちにいつかほんとうの「大全」を作ってほしいものです。
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