結構有名と言うか、すぐに気付き解ることなので、あるいは秀逸な記事が既に存在しているのかも知れませんが、色々と関連用語などでググってもそれらしい比較や考察記事が見受けられず、書いてみました。
モーションブラー
さて、先に挙げた
手描きMADを褒めると云う記事では漫画ではなくてアニメにおける技法として説明と考察が記されています。
拝読した記事の中で、僕が気になったのが
オバケ・ブレ・スカッシュについて。記事内ではプロの演出技法がアマチュアによって実践されている事を評価していますが、僕は
オバケ・ブレ・スカッシュと云う演出技法の扱いそのものが以前より気になっておりました。
オバケ・ブレ・スカッシュは大まかには表現方法として
モーションブラーと言われる演出技法で、少年誌を中心としたバトル漫画に多く、またジャンルに限らず高速な動作を表現するのに用いられます。
漫画は静止画です。映像と違い連続した静止画ではなく、
1コマ目→2コマ目→3コマ目の時間経過が等間隔では描かれません(演出によってはありますが)。
僕は漫画が好きで日本の漫画をよく読みます。そして、外国のコミック、アメコミも少数ながら読みます。そんな中、語弊がありますが、日本の漫画が優れている点、あるいは外国から好評されている点なのではないか、と僕個人が思うのが、登場人物(キャラクタ)の動作描写です。
画像を1目見れば解ると思うので、先ずはこちらを。
画像・左が
川原正敏の著書
修羅の刻 13巻より。
画像・右は
BATMAN THE DARK KNIGHT RETURNSより。
何が違うかと言えば一目瞭然、人物の動作、特に
蹴り足がブレているか否かです。
画像・左の
修羅の刻は足首より先が
足の形をしておらず、それに対して画像・右の
BATMAN THE DARK KNIGHT RETURNSは爪先まで
輪郭線で囲まれており身体の形が明確に描かれています。
アメコミは基本的にフルカラーです。擬音語・擬態語も大きく記され迫力満点、なのにどこか物足りない、それが今挙げた描写の違いだと思うのですが、如何でしょう。
無論、僕が違和感を持つのは、僕自身が日本の漫画を中心とした環境で育ったためで、アメコミを中心とした環境で育った人は、日本のアニメや漫画に見られるこういた描写は違和感があるのかも知れません。そういった境遇を迎えた知人が居ないので話が聞けず残念です。人種を問わず、そういった境遇でこういったことを考えて面白いなんて思う酔狂なかたがいらっしゃいましたら、どなたか御意見を頂けたら嬉しいです。
日本漫画を中心とした認識、と云う前提を以て続けます。
アメコミはカラーが前提なので、基本的に人物と背景がハッキリしています。人物の動きは僕自身が確認出来た範囲で、輪郭線での描写だけでした。
しかし、それだけでは動きを感じられる静止画にはなりません。ではアメコミはどのようにして動きを感じられる描写をするのか、そのひとつが残像です。
画像は
バットマンHUSHですが、日本でも実像よりも薄い残像を描きますが、ここまではっきりと全身の輪郭を描くことは少ないと思います。
また、残像に重ねて白い線が描かれていますが、僕は何と云う技法か知らないので
仮に残像線と呼びます。
この
残像線に関しては、特に違いもなく、日本漫画もアメコミもいたるところで描かれています。
↓
残像線の例。
そして、日本漫画でも御馴染
集中線。
しかし、アメコミの
集中線は中中に考え深いものです。と言うのも、先ほど記した通り、アメコミはカラーが前提です。なので
集中線もカラーで描かれます。
※画像は
X-MEN(エックスメン)これはズルいw
受け攻めの人物は両方とも輪郭線で囲まれているのにこの迫力です。
それでは、今度は逆に日本の漫画では。
※画像は
川原正敏の著書
海皇紀 7巻。
集中線は日本の漫画でもよく利用されますが、非常に解り易い対照として以上のコマを挙げました。
御覧の通り、背景はトーン1色で
集中線が有りません。しかし、とてもスピード感があるコマだと思いませんか?
このコマは
左の人物が右の人物を突く描写なのですが、肘辺りから輪郭線が無くなり
ブレたように描いています。
集中線や
残像線を扱うアメコミにも見られない表現、輪郭線を引かない描写、
この描写を仮に動作線と呼びます。
以上を踏まえた比較。
2コマと1コマの比較なので公平さに欠けますが、これまで記してきたことを踏まえてなので単純にどのように線を引くのか、くらいで見て頂ければ幸いです。
白黒とフルカラー
ここまで書いてきて気付いたのですが、
日本の漫画は基本的に白黒が前提です。そして、
アメコミはカラーが前提です。
つまり、
アメコミはカラー故に様々な色を用いて陰影の描写など距離感がはっきりと解り易く、だからこそ
距離の遠近=動作の描写が明確である反面、写実的に描けるからこそ技法を開発せず、対して
日本の漫画は白黒の2色に限られるからこそ、距離を感じる陰影や動作の表現に苦心した結果、
ちゃんと描かない印象的な表現を獲得した、
欧米に較べて日本で扱える資源が少なかった結果、なんてぼんやりと考えつきましたが、如何でしょうか。
アニメだと3Dが主流のアメリカに対して、3D描写がありながら人物は2Dが主流の日本。これも何か関係ありますかね。
とっくの昔に誰か論じてそうですけどA^^;
ワンダと巨像という3Dアクションゲームがありますが、このゲームの素晴らしさのひとつとして、人間よりも何倍も大きい
巨像の動作に伴い振動する場面に、主人公であり人間でもある
ワンダが、振動を受けて震える表現を、
高速に動かすのではなくて、高速の動作と併用して
モーションブラーを利用していること。
実際の速度は大したことなくても高速の迫力を感じるように演出されています。
終わりに
今回、日本の漫画の
モーションブラー代表(?)として
川原正敏を引用したのには幾つか理由があります。
先ず僕が信者だからw
そして、何故に信者だかと言えば、画像を見れば解る通り、
川原正敏基本的に線の少ない漫画家です。陰影にはトーンを利用し、表情を隠すための影、などの描写以外には余り線を引かず基本的に輪郭線と
モーションブラーを狙った
動作線だけです。
だからこそ、輪郭線を描くか描かないか、2択の比較が解り易い、動作を描写する漫画のデフォルメ(誇張)を極めた漫画家の1人だと思うからです。
こういったデフォルメ(誇張)が、日本のアニメや漫画の魅力の1つであり、欧米で人気を獲得している要因ではないのかと、僕は考えました。
←僕は未読なのですが、
アメコミデザインと言う本があるそうで、これを読むと、先に論じた表現の違いなども更に具体的に詳しく解るのかも知れません。
これ普通にネタとして面白そう、と言うわけで注文してしまいました。
さて、この記事は既に論じられたことがあるかも知れませんし、論旨や用語などに突っ込みどころもあるかと思います。
特に、僕はアメコミに関しては一部好んで読んでいるとは言え、アメコミ通とは全く言えません。そっち系の通人には是非とも御意見を賜りたいです。
また、日本の漫画でも
モーションブラー(動作線)を扱いきれず、激しく動いている筈なのに全く動きが感じられない止め絵の作品もあります(偏見かもしれませんが、少女漫画に多い気がします)。
この記事は作品の優劣を断ずるものではありませんが、それぞれの描写を比較し僕が気付いて感じて考えたことをまとめて記しました。
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