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よくできた映像、継ぎ接ぎの映画【ウォッチメン】 このエントリーをはてなブックマークに追加

ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]DVD(BD)が発売されたウォッチメン(WATCHMEN)を観ました。
僕は映画上映に合わせ再販された原作を読み、たしかにこの作品ならばアメコミの代名詞たる作品だな、と既に決定的である評価に同意した。
正直なところ仕掛けに関しては滑稽だと思ったのだけど、崇高な目的に反する滑稽な手段、と言う点で作品の狙いそのものかもしれないし、それ以外の組み立て、登場人物とそれによる筋書き、漫画としての描写、素晴らしい作品でした。
その原作既読者として偏見丸出しで言うならば、本作は誰得映画だと思った。

■素晴らしかったアバンタイトル

アバンタイトル(avant-title)は素晴らしかった。
演出意図もありコメディアン(The Comedian)死後から唐突に始まる原作に対して、公式サイトでも観られる、殺される理由を伏せておきながら古い臭い優雅なバラードをBGMにアクションシーンを前面に出し作品が内包する歪さを象徴し、ビルの窓から投げられ殺されるコメディアン(The Comedian)の場面。
ザック・スナイダー(Zack Snyder)御得意のハイスピードカメラ(スローモーション)を多用しそれが巧いことはまっていたアバンタイトル(avant-title)から、静止画的な映像を数カット続けて時代など世界観を示したオープニング。

■省略された脇役

原作において状況説明や時代背景を示すために存在した脇役は役割としては存在せず映像で見せるだけだった。
原作でもまだ流して良い存在である同性愛者の女性がオープニングではキスしてる場面がありこれはニヤリとした。
しかしロールシャッハ(Rorschach)宅の大家の話が無かったのが残念だった。
ロールシャッハ(Rorschach)が如何にしてロールシャッハ(Rorschach)となったのか告白し、その後に彼なりの人間味を示すさりげない場面だっただけに、主要人物と絡む脇役の省略は、新聞屋と少年と同じく残念だった。
新聞屋と少年は例の(改変された)仕掛け被害を示す場面のみ登場。
ブバスティスもしっかり登場しますが、オジマンディアス(Ozymandias)のキャラ描写や説明が足りないために、ブバスティスが何故そこにいてどういう存在なのかわからないまま、異様な動物が何故か常に映像に写っている、となっていたのは原作既読,未読の両方に駄目な箇所でしょう。
ロールシャッハ(Rorschach)のマスクの模様が何故動くのか説明もなかったし、厚底の靴にも触れなかったので卑屈さが余り表れていなかった。

■映像における再現度

これは素晴らしかったと思う。
ナイトオウル(Nite Owl)が、コメディアン(The Comedian)の死により自分達に危険が及んでいるとロールシャッハ(Rorschach)から警告され、コスチュームを背景に腰かける場面。
DR.マンハッタン(Doctor Manhattan)の初登場シーン。
これらは原作のコマを再現しつつ映像の流れを含んでニヤリ。
コマの再現とは違うけど、ロールシャッハ(Rorschach)が罠にはまり「No,No,No,No,No,No,No!!」と喚く場面なんかは所見の観客も映画の盛り上がりとして、また原作の再現としても充分。

■再現に努めた代償

300観た時にも思ったのですが、ザック・スナイダー(Zack Snyder)は諄い。
アバンタイトル(avant-title)はド頭ですし作品の象徴なので良かったのですが、アクションシーンに事ある事にハイスピードカメラ(スローモーション)にし、オジマンディアス(Ozymandias)の暗殺未遂の場面でも銃弾をかわし殴るだけなのにえらく時間がかかり、シルクスペクター(Silk Spectre)の火事からの脱出シーンなど、視覚的な印象を優先するあまり、映像としてのつながりは良くても映画としてのつながりが断ち切れてどうにもぶつぎりな印象。
これ原作を知らずに所見の人は話を把握できたのか疑問です。
ナイトオウル(Nite Owl)とシルクスペクター(Silk Spectre)が再会して間もなくチンピラに絡まれる場面や、ロールシャッハ(Rorschach)の過去話で殺す場面など、あそこまでグロ映像にして前面に出さなくても良かったろうし、世界観を再現しようとするあまり、背景と人物の合成ばかりで頑張って作った映像という作品外の思惑が強く印象に残り作品に没頭できませんでした。
映画としての見せ場、迫力あるアクションシーンで良かったのはロールシャッハ(Rorschach)が罠にはまり警官を殴り倒すところと刑務所でシルクスペクター(Silk Spectre)が囚人を殴り倒すところ。どちらも生身の人間が縦横無尽に動く場面で、映像の効果というのは、まず生身をしっかり撮影し見せてこそ活きる、活かすためのものだな、と反面教師としてためになる作品ではあったと思います。

■シルクスペクターにふさわしいエロさ

ナイトオウル(Nite Owl)とシルクスペクター(Silk Spectre)のセックスシーンはやりすぎ。尺が長いし色気がありすぎw
ヒーローとして再活動し高揚したまま抱き合う2人。
つまりあの場面は2人がヒーローという超然的なものではなく、感情の波、興奮し欲望のままにする人間なのだと示す意味もある場面だったのに、尺が長くシルクスペクター(Silk Spectre)役のマリン・アッカーマン(Malin Akerman)の豊満な胸も丸見えでただの御色気シーンになっていたのが何とも言えない複雑なエロ心でしたw
改変された仕掛けから原作と変わらず別れるシルクスペクター(Silk Spectre)とDR.マンハッタン(Doctor Manhattan)のキスシーンはその場その場で綺麗におさめる反面、作品全体を崩す本作を象徴していたように思う。

■音楽

挿入歌が多く作品の緊迫感を崩してしまい残念だった。
エンディングも明るいロックポップで作品の思想とは合っていないと思った。

■改変

仕掛けを改変したのは良かったと思う。僕は原作の仕掛けは最初読んだ時に面食らってしまったので、映画での改変は尺と辻褄と両方の意味で良かったと思う。
けど、人物描写が足りないせいでロールシャッハ(Rorschach)の最後、ジャッキー・アール・ヘイリー(Jackie Earle Haley)の演技が素晴らしく「なにをためらう?」とDR.マンハッタン(Doctor Manhattan)につめより「Do it!」と叫ぶ覚悟と破綻が見事に空回りしていた。
あの場面だけ観たら万々歳の映画化だったのに。
また仕掛けの改変によりDR.マンハッタン(Doctor Manhattan)の退去は問題を1つ作るだけだし作品内での解決もせず大きな矛盾を作る結果になった。

■総評

アクションシーンはスローモーションで尺を取り、説明を出来るだけ省いて改変したせいで、それぞれが何を抱えてどうしてそこまで深刻なのかがわからないまま終わる作品。
初代ナイトオウルの殺害シーンが無いので退廃の象徴がなく、コメディアンに関する話が少ないので単なる暴力者でしかなく、火星でコメディアンと自分の関係を知ったシルクスペクターが何故あれほどに悲しむのかもわからないまま泣いてる場面を見せつけられ、ベトナム戦争の映像があまりにCGなので危機感も絶望感もなく浮ついていて、よくできた映像、継ぎ接ぎの映画でした。
この作品は是非原作を読んでほしい。

■おまけ

原作の骨組みがしっかりしてるので改変自体をいちいち突っ込むのは無粋だと承知していますが、それでもこれは笑いました。僕は改変には好意的ですけどねw

【ネタバレ注意】総統閣下が映画版ウォッチメンにお怒りのようです

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関連リンク
映画『ウォッチメン』オフィシャル・サイト~2009年3月28日〔土〕より 丸の内ルーブルほか全国ロードショー
ウォッチメン - Wikipedia
超映画批評『ウォッチメン』98点(100点満点中)

ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (SHO-PRO BOOKS) アラン・ムーア

Tags : ウォッチメン WATCHMEN アメコミ

未分類 [ 2009/09/16 01:18 ]