女の嘘は最低だけど、女の子の嘘は最高だ。
清水マリコの著作、
嘘と
町と
不思議が主題の『嘘』シリーズ3部作
- 嘘つきは妹にしておく
- 君の嘘、伝説の君
- 侵略する少女と嘘の庭
を読みました。
3部作と言っても、それぞれは1話完結で主人公もそれぞれ異なり、どれだけを読んでも楽しめる構成になっています。
嘘つきは妹にしておくの慷概は以下。
ある日、主人公・ヨシユキのカバンの中に、見覚えのないものが入っていた。それは、ほとんどのページが真っ白な、おかしな本。「その本はね、あるお芝居の脚本なの」突然現れた女の子は、自らを「現実じゃないの。妖精かな」と言う。ヨシユキはその少女「みど」と共に、失われたページを持つ人々を捜すことに…。果たして、そこに描かれていた物語とは? そして、みどの正体とは? あなたの心に切なさと懐かしさを喚起するファンタジックストーリー。
――1巻の
嘘つきは妹にしておくに限らず、
君の嘘、伝説の君と
侵略する少女と嘘の庭にもシリーズ共通するのは、主人公の男の子は平々凡々の中学生。そして、ひと癖あるけったいで愛らしい、
嘘をつく女の子。そして夏のとある町。そして、そこで起こる男の子の
不思議な経験。
1.嘘つきは妹にしておく
嘘つきは妹にしておくは題名に反して
妹萌えじゃないw
「現実じゃないの。妖精かな」と言う女の子にたじろぐ男の子。そりゃそうだ。初対面の女の子にそんなこと言われてビビらん男子はいない。しかし、女の子の真摯な姿勢に惹かれ、疑りながらも
物語の断片、
失われたページを探すのに協力します。
そして、
物語の断片を持つ人人との出会い。戦いなんていう覚悟はいらない、けれど、付き合うだけの構えは必要。ボーイミーツガールとは違う、けれど放し難い、男の子と女の子の関係――冒険。
不思議なのに平坦と、日常なのに不思議と描かれる、雰囲気という眼には見えない耳には聞こえない、けれどしっかりとある不思議が描かれる。3部作の題名は、それだけですべてを表しているのに、「やっぱりね」じゃなくて「そうなんだ」と思ってしまう物語。
でもね。思うんだけど……人と心を通わせるのと、超能力や必殺技で勝利するの、どっちが難しいかって言ったら、私は、人と心を通わせるほうだと思うよ。
思い出になれば、何もかも優しくなるらしい。そんな歌を聴いたことがある。でも、まだ思い出が優しくなれるほど長く、生きていない。楽しかったあの日を「思い出」の世界へ追いやってしまうのは、もったいない。辛かったあの日は胸に居座って、なかなか「思い出」には変わってくれない。どうしよう。ずっと優しくなれなかったら。大丈夫だと、誰かに笑って言ってもらいたい。それを信じて、あともう少し、痛々しい自分に耐えることができる。
こんなの中学生が考えることじゃないw
不思議ゆえに、そうなった謎への根拠と論理は薄弱。それは、作品として説明されるけど、薄弱。しかし、そんなのを一掃する不思議、魅力。
個人的にはヒロインの
みどよりもゴスロリ趣味の
ゆりかが好き。
2.君の嘘、伝説の君
2巻である
君の嘘、伝説の君では不思議度は減衰。
嘘つきは妹にしておくでは恋愛とも言い切れない想いとは異なり、今作でははっきりと
ボーイミーツガールが描かれている。
K中学に通う二年生の男子、浅井操は、授業で読書感想文の音読をさせられ、とんでもなく不機嫌になってしまう。しかし、その作文を欲しいと言う女の子があらわれた。その女の子がヒロイン・神鳥智奈(かみとりちな)。
所謂
不思議ちゃんである智奈だが、その眼は憂いと真剣さを孕んでいて、操はよく解らない話を聞かされながらも、智奈を――。
前作では
物語の断片などファンタジィとしての要素、世界観があったのに、今作は不思議と言える不思議はほとんどない。言うなれば、
君の嘘と
伝説の君とはなんなのか、それが不思議。
なんの説明にもなっていませんねA^^;
最後に明かされる不思議は、読者としても不思議ではなく展開は先読めます。けれど、「やっぱりね」じゃなくて「そうなんだ」と胸にくる。
前半部の、操が初めて智奈の家にあがり、智奈のある御願いを操が聞くところなんて、ニヤニヤしながら泣けてくる。悲しいわけでも切ないわけでもないのに。
そして、後半部に操が再び聞く、前半部とは異なる智奈のある御願い。
ドキドキする。
怖い、嬉しい、寂しい、楽しい、悲しい。
ドキドキする。
後述しますが、一番好きな表紙でもあります。
3.侵略する少女と嘘の庭
この町の、片隅に素敵な呪い。
お姫様は、内緒で戦士募集中。↑冒頭の書き出しがこれ。ドキドキせずに読めというほうが無理。シリーズで一番好き。幼馴染とかツンデレとか、そんなん関係ない。キーワードは
『わがまま』。だけど、自分勝手や利己主義とは違う、
わがまま。
今作では不思議は一切無い(言い切った)。プラモが趣味の
早川牧生と、ツンケンして
キラー悪魔中山と言われる女の子
中山りあ。
早川牧生はK中学の2年生。幼なじみである裕貴、唯、琴美と、惰性のように4人で過ごしていた。ある日牧生は、「運命の相手」を見つけるという占いをさせられる。その占いで細工をした牧生は、いるはずのない「運命の相手」を探しに学校の裏庭へと向かうことに。そこにいたのは、校内でも有名な美少女だがクラスに馴染まない不思議な少女・中山りあだった。
実際に口が悪く、酷いこともよく言う
りあ。
だからこそ、顔が良いのに男子と、そして女子とも関わらず一人で居る。
「私、表面だけ気をつかわれて、嬉しくもないのにありがとうって言うのいや」
「わがままだな」
「そうだね」
素直に認められて、牧生は気が抜けた。
「でも、わがままにしてきらわれるほうが、我慢してきらわれないほうよりもいい」
りあは牧生を見つめたまま言う。
「それで、誰にも好かれなくていいのか?」
「違うよ。好きはもっと強いよ。私が好きな人も、私を好きな人も、好きがあれば、わがままなんて、たぶん気にしない」
「わけわかんねえよ」
「牧生、いまので私のこときらいになった?」
「……」
女の子、しかも中学生でこれを言い切れば、たしかに誰も近づかない。そして、もしも近づけば、そりゃベタ惚れだよなw
「運命の相手」というネタで牧生につけこみ、出会ったその日に牧生の家へ押し掛けて「泊めて」と
侵略する少女、「牧生」と軽々しく呼び捨てる
りあ。その
わがままを押す理由、支える理由とは
嘘の庭。これも題名通りでなんの不思議もない。説明になってないけど、それ以外に言いようが無い。そこが不思議。
本作では特に、シリーズ全体にも言えることだが、脇役も魅力的でそのやりとりが素晴らしい。
「おれにも訊けよ」
「じゃあ梶原君はどうです」
牧生は小さい学級会の議長になった。
「はい。早川君がモテて気持ち悪いですがなんでもいいです」
「モテていませんがわかりました」
関わり難い
りあと何故か接しえる牧生に対する幼馴染の言動。どうにも笑ってしまう。
性格は良いのに、何故か人を突き放す
りあ。自分がいい人になると良くないことが起こる。呪われているから。シリーズ通して突飛な発言をするヒロイン。だけど、今作には不思議などない。では、
りあの
呪いとは。
顔も頭もいいと自ら言い切る
りあ。しかし、それを言い切る理由とは。
ツンとかデレでは括れない、毒舌と甘言。
侵略する少女のなんと魅力的なことか。
最後の二人のやりとりに、身悶えしないやつは前に出てこい!!
シリーズ通して、御約束ながら個性を放つ本作品の支柱として、表紙と挿絵があるでしょう。
全章の頭に、見開き2頁の挿絵が。これがまた素晴らしい。必然的な挿絵。なんの説明もしていない、けれど缺かせぬ表現、描写。
とても乱暴ですが、
toi8描く表紙に惹かれたならば、あらすじを知らなくともジャケ買いでも当たりだと思います。
無駄に長くなってしまいましたが、それだけ素晴らしい作品だと思います。
妹? ツンデレ? 幼馴染? 御約束?そんなの関係ない。どれもが当てはまるけど、それだけじゃない、そんな不思議な作品。
女の嘘は最低だけど、女の子の嘘は最高だ。
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