以前に書いた記事
アメコミと日本漫画を比較し見る描写・表現の違い『写実的・輪郭線』と『印象的・動作線』を読まれたかたから
「日本漫画にくらべアメコミは背景の描き込みが凄いと思うけど実際どんくらい違うのか」と言う意見(質問)を頂いた。
僕自身アメコミ全体を語れるほどの知識はなく「
X-MEN」「
WATCHMEN」「
BATMAN」と限られた作品(作家)から得た情報(印象)しか無いけど当記事は自分の蔵書から自分なりの感想まとめである。
結論は以下
漫画とアメコミを比べると確かにアメコミのほうが背景を描き込んでる作品が多いと思う。
その印象深さは描き込まれた絵とそれ以外を含む
以下の3点が強い理由ではないか。
- 萌え絵のような誇張と省略の様式美と同じで、キャラの髪型や服装だけで説明でき背景を必要としない漫画の文法と、背景によって環境や立場を説明するアメコミの文法の違いがある
- 漫画とアメコミの背景が不要でかつ売れて許容されるジャンル量の違い
- 同じ無地でもアメコミには色がある
と言うわけで漫画は本当に背景が薄いか。アメコミの背景は凄いのか。
僕の数少ない偏った蔵書から説明していこうw
アメコミは基本的にフルカラー。日本漫画は白黒。
当然例外もあるけど世界に知れ渡る有名な作品に限るとやはりこの基本的な認識に間違いはないだろうと思う。
ハリウッド映画=銃と大爆発、みたいなw
とりあえずその前提で話を進める。
アメコミの背景は確かによく描きこまれてると思う。
特にアメリカの都会を舞台にした作品が多く有名なので、
バットマンの表紙など顕著で人物の大きい絵に対して背景である街並の描き込みも実に見事である。
ゴッサムシティを背景に疾走するバットマン。この象徴的な見開き2pageで描き込まれてるのは勿論、以下のようなキャラ紹介をかねた1コマにすぎないアクションシーンでもしっかりと背景がある。
日本漫画もアクションシーンに背景を描く作品(コマ)もあるが白地に集中線と言う描写も珍しくない。それを手抜きだと思う読者もそういないと思う。少なくともアクションシーンにおいては。アメコミにおいても建造物など具体的な背景でなく集中線のように抽象的な背景も勿論ある。
以下のコマは左には具体的な冷蔵庫、右には抽象的な集中線が描かれている。
ウォッチメンより人物のための抽象的な背景
また以下の対比が
アメコミの背景を印象深くしてる理由を1番説明しやすいかと思う。
ウォッチメンと
君に届けの比較だけど我ながら何と言う組み合わせだw
両方とも背景が無い。場所や状況よりも2人の関係や感情こそが大事なコマであり背景は描かれてない。
しかし前者の
ウォッチメンは背景が無地だが色がある。しかも人物ごとに違う(髪の色づかいは同じ)。
対して
君に届けのうらやまけしからん2人は全く同じ背景、白無地だ(髪の色づかいが違う)。
少ない色と少ない線
線がなくとも色がある。
それこそが
アメコミの背景を印象深くしてる理由ではなかろうか。
またバットマンで恐縮だが有名な
ダークナイトリターンズでは2pageともろくに描き込んでない背景だが時間帯や精神的な意味あいを何となく感じ取れる。
時間と場所が何となくわかる程度の背景を日本でやるとこうなる。
室内で少なくとも夜ではない。キャラの服装から学生(学校)と推察できるけど、病院かもしれないし、窓の外が省略されてるから少なくともこのコマだけでは細かい状況がわからない(作品を読めばわかるし細かい状況自体が本筋には重要でないので問題ない)。
単純に少ない色で、少ない線で、省略した背景自体はどちらもあるのだ。
人物のための無地。説明のための背景。
日本漫画でも作品にとって必要ならばしっかりと背景が描き込まれる作品も当然ある。
しかし以下
よつばと!を見てわかる通り、背景を描き込んだコマから突然キャラ強調のため白無地の背景になる。
よつばと!よりこれは白黒だから「無」に感じるが先の例の通り1色でもあれば「背景が無い」とは思わないではなかろうか。
また陰影をトーンでなく線で描く劇画的な作品は背景の描き込みも多い傾向にある気がする。
以下は「
ヴィンランドサガ」「
壬生義士伝」
特に後者の
壬生義士伝では人物の輪郭線の周りに背景が無く(トーンだけ)人物を際立たせる配慮がある。
たしかに背景自体を省略する漫画は多い。しかし背景こそが状況説明である場合にはそれなり描かれてるし線が少ないとも思えない。
アメコミが許容する作風
問題なのは作品の舞台設定ではないかと思う。
少年少女漫画などは世界観ではなくデフォルメされたキャラクタの描写こそ命の作品が多くフルカラーかつ人物と背景が同じ線で描かれるアメコミに較べると背景の印象が薄いのもわかる。
以下は
とらドラの場面だが、状況説明のための台所背景コマの次は人物強調のための白無地背景コマ。
それこそ僕が好むアメコミ作品が時代や舞台などそういった設定に主題を置く作品ばかりなのもあるが、漫画はそこまで社会的な何かを含まず、極論を言えば1組の男女の顔の表情だけでなりたつ恋愛話などもあるわけで、漫画とアメコミの背景に対する印象は、
背景を必要としない漫画の作風と背景が設定と伏線と人物を語るアメコミ作風の量が違うから発生する疑問なんじゃないかと思った。
たとえば日本の学生を描くにはキャラに制服を着せればいいが、アメリカの場合には学生=制服はなりたたず私服も多いのでキャラ(人物)だけでは描ききれない情報がある。また、アメリカの映画や小説なら日本の
君に届けに相当する細かい背景はいらない作品が幾らでもあるが、アメコミではそもそもそういったジャンル自体が受けていないのかもしれない。
日本の萌え絵のように、背景を含んだある種の様式美がアメコミにはあるのかも。
漫画に限らずアニメだと顕著だが人物絵が誇張(デフォルメ)された絵に対して背景は絵画的な絵柄だったりします。
アニメの場合には漫画とは逆に「背景も別の作風で描きこんでいる」事になるが、漫画だと白黒が基本なので余り描きこむとぐちゃぐちゃして人物と背景を判別しにくいから省略する場合も多くある。
背景は描いてあるが人物の周りだけ白く人物の輪郭線から離れた場所から背景が描かれるなど。
SFや時代モノなど読者にとって異なる環境を説明する場合の背景はしっかり描いてあるが、人物描写にともなう背景はアメコミにくらべると省略した白無地が多い。
だからアメコミのフルカラーかつ線ある背景に更に強い印象を持つ。
……のかな。
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